海外旅行で建築物を観光している人
「ガイドブックの観光地要所にゴシック建築様式やバロック建築様式など様々な建築様式が書かれているんだけど、どういった意味なの?さらに言うと観光地の建築様式の概要などがまとまっていると嬉しいな。」
建築物には建築様式があり、意味が理解できないまま観光している人が多いと思いますが、建築様式の概要を理解しておけばさらに観光が楽しめると思います。
今回は、西洋建築において代表的な建築様式から一歩踏み込んだ建築様式まで建築的観点を詳しく紹介します。海外建築旅として建築様式のガイドブックとなれば幸いです。
本記事を書いている僕は、建築士として活動しつつ、過去に建築旅として30か国以上訪問してきた経験から、旅のコツを経験をもとに得た情報を発信しています。
ではさっそく主要建築から見ていきましょう。建築重要用語は赤字でマークしています。
7つの主要西洋建築様式
西洋建築の推移
歴史の流れとしては、以下の通りです。
①古代ギリシャ・ローマ
②東西に分裂
③西ローマが滅び、フランク王国が力をつけていく
④フランク王国が分裂し、現在のフランス、ドイツ、イタリアの基礎ができる
今回は、この歴史の流れに沿って、「古代」⇒「中世」⇒「近世」の順でみていきます。
ギリシャ建築
紀元前7世紀ごろより、ギリシャ周辺で発展した建築様式。
神殿に代表されるように、どっしりと重厚感のある直線的なつくりが特徴です。ドリス式、イオニア式、コリント式の3種類のオーダーがあり、黄金比を用いて神殿を美しく見せるための工夫もなされています。
また、たくさんの柱が細かく並べ、それを梁(はり)で支えているのも特徴です。
代表的な建築
・パルテノン神殿(ギリシャ)
ローマ建築
紀元前5世紀~4世紀初頭ごろ、ローマ帝国で栄えた建築様式。その後のヨーロッパ建築にも多大な影響を与えました。
ギリシャ建築を受け継ぎつつ発展させており、ドーム天井やバシリカ、アーチ建築が特徴です。小さな材料でも大空間を作ることが可能となりました。
代表的な建築
・コロッセオ(イタリア:ローマ)
・パンテオン(イタリア:ローマ)
ビザンチン建築
6世紀ごろ、ビザンツ帝国(現在のトルコ)で栄えた建築様式。
ローマ建築様式と東方文化が融合して生み出され、バシリカなどの聖堂にドーム天井を組み合わせているペンデンティブ・ドームが有名です。また、内部はモザイクや大理石で装飾されている点が特徴的です。
後のイスラム建築にも、大きな影響を与えたと言われています。
代表的な建築
・サンマルコ大聖堂(イタリア:ベネチア)
・アヤソフィア(トルコ:イスタンブール)
ロマネスク建築
10世紀末から12世紀にかけて、ヨーロッパで栄えた建築様式。
ロマネスクとは『ローマ風』という意味を持っており、ローマ建築のバシリカが発展したものです。
全体的に重厚的な印象であり、石造りの厚い壁や小窓、半円アーチ構造の天井などが特徴となっています。
扉の上部(タンパン)などに聖書に書かれている人物や場面のレリーフが彫られていることが多いです。
代表的な建築
・ピサ大聖堂(イタリア:ピサ)
・ル・トロネの修道院(フランス)
ゴシック建築
12~16世紀ごろ、ヨーロッパ各地で栄えた建築様式。
交差リブ・ヴォールトを用いた高い天井と鮮やかなステンドグラス、バラ窓が特徴で、軽やかで明るい様式です。
細部の特徴として、外観には尖塔アーチを持っていること、さらに光の面を構成するような大きな壁面を支持するフライングバットレスなどがあります。
代表的な建築
・ケルン大聖堂(ドイツ:ケルン)
・サントシャペル(フランス:パリ)
・ドゥオモ(イタリア:ミラノ)
・ノートルダム大聖堂(フランス:パリ)
ルネサンス建築
15~17世紀ごろ、イタリアを中心としたヨーロッパで栄えた建築様式。古代ギリシャやローマを模範としています。
幾何学模様を用いたシンメトリー(左右対称)とバランスを重視している点が特徴的です。
代表的な建築
・サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂(イタリア:フィレンツェ)
・サン・ピエトロ大聖堂(バチカン)
バロック建築
16~18世紀初頭にかけて、ヨーロッパや中南米で用いられた建築様式。
曲線やねじれた線、絵画などを用いた過剰な装飾が特徴であり、絶対王政期の王朝で多用されました。
また、台風や地震が多いフィリピンの風土に合わせて、天井を低くする独自の建築様式のため『地震のバロック』と呼ばれています。
そういった手法を用いることにより、都市と建築を密接に結びつき、平面的に中心軸が強調されることで、劇的な都市の風景を作り出しています。
代表的な建築
・ベルサイユ宮殿(フランス)
・シェーンブルン宮殿(オーストリア:ウィーン)
・サン・アグスティン教会(フィリピン:マニラ)
ここまでが代表的な西洋建築の時代別主要7つの建築様式を紹介してきました。さらにここから深掘りして、世界各国にある建築様式をアイウエオ順で解説していきます。
その他建築様式 あーお
アモイ・デコ様式
アールヌーヴォーなどの西洋の建築様式とアモイ(中国の厦門)周辺地域の文化が融合して生まれた建築様式。
アモイに面した小さな島「コロンス島(鼓浪嶼)」が発祥です。
代表的な建築、地区
・鼓浪嶼(コロンス島)
アラブ・ノルマン様式
アラブ文化とノルマン文化が融合した建築様式。
代表的な建築、地区
・ノルマン王宮(イタリア:パレルモ)
アール・デコ様式
西暦1910~30年代ごろにアメリカを中心として流行した様式。
円や流線形、波模様などの幾何学模様を用いた表現や、定規で引いたような直線的デザインが特徴となっています。
代表的な建築、地区
・エンパイアステートビル(アメリカ:ニューヨーク)
・ロックフェラーセンター(アメリカ:ニューヨーク)
アール・ヌーヴォー様式
19世紀末~20世紀初頭にかけて、ヨーロッパを中心に広がった美術運動。その影響は建築にも及びました。
ドイツ語圏ではユーゲントシュティール様式と呼ばれています。
代表的な建築、地区
・アムシュタインホフ教会(オーストリア:ウィーン)
・タッセル邸、ソルヴェイ邸、オルタ自邸(ベルギー:ブリュッセル)
アンピール様式(帝政様式)
9世紀前半、フランスにおいてナポレオン1世の時代に流行した様式。
古代ローマやエジプトで見られた重厚かつ豪華な表現、古典主義的な構成が特徴となっています。
また、第2次新古典様式とみなされることもあります。
代表的な建築、地区
・凱旋門(フランス:パリ)
イオニア様式
紀元前650年~480年ごろ、イオニア地方(現在のトルコ南西部)と呼ばれた地域で発展した建築様式。
オリエントの強い影響を受けた形式であり、どこか繊細かつ軽快な女性的な雰囲気です。
柱頭などに渦巻きなどの装飾が特徴となっています。
代表的な建築、地区
・アテネのアクロポリス – エレクテイオン神殿(ギリシャ:アテネ)
エレーラ様式(無装飾様式)
建築家フアン・デ・エレーラ(Juan de Herrera)によって生み出された建築様式で、建物外部がほとんど装飾されていないのが特徴となっています。
代表的な建築、地区
・エル・エスコリアール修道院(スペイン・マドリード)
かーこ
近代建築様式(新現代様式)
産業革命によりコンクリートや鉄、セラミックなどの新たな建築素材が誕生、また建築技術の発展によって生まれた建築様式。
バロック様式やロココ様式のような、過剰な装飾に反発した西欧諸国で流行し、アールデコやモダニズム建築が生まれるキッカケとなりました。
代表的な建築、地区
・カサ・ミラ(スペイン:バルセロナ)
グスタヴィアン様式
スウェーデン王・グスタフ3世が好んだロココ様式に、古典様式を融合させた建築様式。
代表的な建築、地区
・ドロットニングホルムの王領地 – 宮廷劇場(スウェーデン)
クラサオ・バロック様式
18世紀以降に発展した、赤・青・緑などのカラフルな壁に、曲線を用いた切妻屋根と回廊が特徴の建築様式。
クラサオとは、オランダ領である「キュラソー(Curaçao)」のことです。
代表的な建築、地区
・ウィレムスタットの歴史地区(オランダ)
クメール様式(プラ・プラーン様式)
9~15世紀ごろ発展したクメール王国(現在のカンボジア)の影響を受けた建築様式。
砲弾状の高い塔堂が特徴的です。
代表的な建築、地区
・アンコールワット(カンボジア:シェムリアップ)
ゴシック・ムデハル様式
ゴシック様式とムデハル様式が混じりあった建築様式。
代表的な建築、地区
ゴルフィネス・デ・アバホ邸(スペイン)
ゴシック・リバイバル様式(ネオ・ゴシック様式 / 歴史主義様式)
18世紀後半から19世紀にかけて、ゴシック様式の復興を目指した建築様式。
尖塔アーチや、ガーゴイルを模した雨どいが特徴です。
代表的な建築、地区
・ウェストミンスター寺院(イギリス:ロンドン)
・チャトラパティ・シヴァージ―・ターミナス駅(インド:ムンバイ)
コロニアル様式
17~18世紀にかけて、ヨーロッパ諸国の植民地に多く建てられた建築様式。
コロニアルとは『植民地』という意味です。
建物の正面にはポーチが付き、大きな窓やベランダがあるのが特徴。その土地の建築様式と融合していることもあります。
代表的な建築、地区
・ラッフルズホテル(シンガポール)
ゴンダール様式
ポルトガルやイスラム、バロック様式が交じり合った独自の様式。
代表的な建築、地区
・ファジル・ゲビ、ゴンダールの遺跡群(エチオピア)
さーそ
ジョージアン様式
18~19世紀ごろのジョージアン時代にイギリスで栄えた建築様式。
シンメトリー(左右対称)でシンプルなデザインが特徴です。
代表的な建築、地区
バースの市街(イギリス)
新古典主義様式
18世紀から19世半にかけて、ヨーロッパで栄えた建築様式。
古典様式を再評価して生まれました。
代表的な建築、地区
・セント・マーガレット教会(イギリス:ロンドン)
・シエンフエゴスの歴史地区(キューバ)
スーダン様式
日干しレンガを重ね、泥を塗って仕上げる建築様式。
代表的な建築、地区
・ジェンネの旧市街 – 泥のモスク(マリ:ジェンネ)
ゼツェッション様式
過去の建築様式にとらわれない、生活や機能と結びついた自由な造形を目指した建築様式。
代表的な建築、地区
・広島平和記念碑(原爆ドーム)
たーと
タルー・タブレロ様式
北中米を中心に普及した、傾斜壁(タルー)と垂直壁(タブレロ)を交互に組み合わせて基壇部分を作る建築様式。
代表的な建築、地区
・ティオティワカン(メキシコ)
チロエ様式
ヨーロッパと、チリにあるチロエ島の建築様式が調和した様式。
代表的な建築、地区
・チロエの教会堂群 – カストロ教会群(チリ)
チャハル・イーワーン(4イーワーン)様式
イーワーンとは、イスラム建築によくみられる、三方が壁&もう一方が開いた、天井がアーチ状の空間です。
このうち4イーワーンとは中庭の周囲を建物で囲み、東西南北それぞれにイーワーンを設けたものを指します。
代表的な建築、地区
・金曜モスク(イラン:イスファハーン)
チューダー様式
イギリスのチューダー朝時代(15世紀末~17世紀初頭ごろ)に栄えた建築様式。
聖堂建築では、ゴシック様式にルネサンスの装飾的要素を加えたのが特徴です。
また、木で組んだ梁や柱などの構造をあらわにしたハーフティンバーと、漆喰や煉瓦の壁を持つ一般人の家屋もチューダー様式と呼んでいる。
代表的な建築、地区
・ヒーバー城(イギリス)
チュリゲラ様式
17世紀末~18世紀にかけて広がったスペイン独自のバロック様式。南米にあるスペイン植民地(ペルーなど)にも多く見られます。
バロック様式がもとになっており、金銀細工や大理石の装飾、化粧漆喰など豪華で繊細な装飾が特徴です。
名前は建築家などを輩出したチュリゲラ家から名付けられました
代表的な建築、地区
・サカテカスの歴史地区 – カテドラル(メキシコ)
ドラヴィダ様式
インドで見られるイスラム教建築のひとつ。
台形の塔門(ゴープラム)の表面には人間や動物が描かれているのが特徴となっています。
代表的な建築、地区
・大チョーラ朝寺院群 – ブリハディーシュワラ寺院(インド)
なーの
ナジャディ様式
15世紀に起源を持つ、アラビア半島中央部に見られる建築様式。
代表的な建築、地区
・ディライーヤのツライフ地区(サウジアラビア)
ノヴゴロド様式
ロシアのノヴゴロドで見られる建築様式。
左右対称(シンメトリー)が特徴となっています。
代表的な建築、地区
・アサンプション教会(ロシア)
はーほ
ハーフティンバー様式
15~17世紀ごろ、北ヨーロッパ(フランスやドイツ、イギリス)で多く建てられた建築様式。特に住宅で用いられました。
フランス語ではコロンバージュと言われます。
柱や梁を外壁に露出さ、その間にレンガや土などを充塡して壁とする木造家屋。半木骨造とも呼ばれています。
代表的な建築、地区
・北ヨーロッパの一般住宅
パッラーディオ様式
15世紀ごろ、ヨーロッパを中心に流行した建築様式。
ベネチアの建築家アンドレーア・パッラーディオ(Andrea Palladio)の設計から派生して生み出されました。
柱廊やドームを、一般市民の建築物に採用したことで知られています。
代表的な建築、地区
・ヴィチェンツァの市街とヴェネト地方のパッラーディオ様式の別荘群(イタリア)
パローツ様式
泥と藁(わら)を用いて壁を作り、表面は石灰を塗って仕上げている建築様式。
屋根の下部にある木板に飾りがあり、バルコニーの模様にも特徴があります。
代表的な建築、地区
・ホッローケーにある家屋(ハンガリー)
ハーン・ジャハーン様式
イスラムとインドを合わせた独特の建築様式。とても珍しく、世界でココでしか見ることができません。
代表的な建築、地区
シャイト・グンバド・モスク(バングラディシュ)
徽派建築
中国の伝統的な建築様式で、漆喰を塗られた白い壁とは灰色の瓦屋根が特徴となっています。
代表的な建築、地区
・安徽省南部の古村落 – 西逓・宏村(中国)
プウク様式
中南米で栄えたマヤ文明の建築様式のひとつ。
平屋根の水平な稜線(りょうせん)とモザイク装飾が特徴となっており、雨の神であるチャックモールの顔が付けられています。
代表的な建築、地区
・ウシュマルの古代都市 – 魔法使いのピラミッド(メキシコ)
プラテレスコ様式
ルネサンス様式が基となった建築様式。
壁や建物の開口部に緻密な浮彫りが施されています。
代表的な建築、地区
・サマランカのオスピタル・ドゥ・エストゥディオ(スペイン)
フランボワイヤン様式
ゴシック様式のひとつであり、15~16世紀にフランスを中心に広がりました。
窓などに炎の形のような装飾(=フランボワイヤン)がなされていることが特徴です。
代表的な建築、地区
・サン・セブラン教会(パリ)
・ブルゴスの大聖堂(スペイン)
ブルンコヴャヌ様式
ギリシャの建築様式とルーマニア独自の文化が融合した建築様式。
均整の取れた、白い石造りの優美な外観が特徴です。
名前は修道院の創設者コンスタンティン・ブルンコヴャヌに由来。
代表的な建築、地区
・ホレズの修道院(ルーマニア)
プレ・サハラ様式
アフリカで用いられることの多かった、防御も兼ねた複数階のつくりを持つ建築様式。
代表的な建築、地区
・アイット・ベン・ハドゥ(モロッコ)
まーも
マヌエル様式
15世紀後半~16世紀ごろ、ポルトガルで流行した建築様式。
ゴシック様式の影響を受けておりサンゴや貝殻、ロープ、鎖などの海をテーマにした過剰ともいえる装飾が特徴です。
代表的な建築、地区
・ジェロニモス修道院(ポルトガル:リスボン)
・キリスト教修道院(ポルトガル:トマール)
マル・グルジャラ様式
インドで見られる建築様式
代表的な建築、地区
・ラニ・キ・ヴァヴ:グジャラト州パタンにある女王の階段井戸(インド)
ムデハル様式
レコンキスタ(国土回復運動)のあと、イスラム教徒とキリスト教の建築様式が融合したスペインの建築様式。
建物の壁に、彩色タイルやレンガを用いた幾何学模様の装飾が特徴です。
代表的な建築、地区
・カサ・ビセンス(スペイン:バルセロナ)
・サン・フランシスコ修道院(ペルー:リマ)
メスティソ様式
バロック様式に、先住民の文化的要素が混じりあった建築様式。
メスティソとは白人とラテンアメリカの先住民・インディオの混血である人々のこと
代表的な建築、地区
・サン・ロレンソ教会(ボリビア:ポトシ)
・ラ・コンパニーア教会堂(ボリビア:ポトシ)
らーろ
ルアン・パパン様式
ラオスのルアン・パパンで見られる建築様式。軒に向かって流れる何層にも重なった屋根が特徴となっています。
代表的な建築、地区
・ワット・シェントーン(ラオス:ルアン・パパン)
・ワット・マイ(ラオス:ルアン・パパン)
ロココ様式
18世紀ごろフランスを中心に栄え、以後ヨーロッパ各地に広まった建築様式。
淡い色彩を用いた軽快で優美な華麗な室内装飾と、壁面と天井に境目がない構造が特徴です。富裕層の住居を中心に用いられました。
代表的な建築、地区
・サンスーシ宮殿(ドイツ:ポツダム)
・エカテリーナ宮殿(ロシア:ツァールスコエ・セロー)
・ヴェルサイユ宮殿内 – プチ・トリアノン(フランス)
まとめ
ヨーロッパをはじめとして世界各国には様々な建築様式があります。またその土地に根付いたバナキュラー建築もあり、風土や地形を最大限に生かした知恵のある建築もあります。
調べれば調べるほど奥が深いく面白い分野です。それぞれの様式の特徴がわかり、さらにその時代の文化や歴史を感じれて、より観光が楽しめると思います。
あなたも海外建築旅をすると楽しいと思います。是非お試しあれ!!
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